2016年3月13日日曜日

話題の新作、バレエ、そして新年へ…(三題噺にはならない

こんにちは。千葉です。

さて、ちょっと前置きを書きにくい気分にございます故さっさと本題へ。公共放送の誇る文化系看板番組、プレミアムシアター3月の予定ですよ。


●3月14日(月)【3月13日(日)深夜】午前0時~4時5分

・ドキュメンタリー『海、静かな海 フクシマへのレクイエム』
・ハンブルク国立歌劇場公演 歌劇『Stilles Meer   海、静かな海』【5.1サラウンド】
・アンドラーシュ・シフ ピアノ・リサイタル

番組の前半が、先日ハンブルク国立歌劇場で初演された細川俊夫の歌劇「Stilles Meer   海、静かな海」の初演をめぐるドキュメンタリ&実際の舞台です。1月の初演から、あの地震の日に近いタイミングで放送できるよう努力されたことでしょう、尽力された公共放送文化部各位に最高の敬意を。



後半は再放送、アンドラーシュ・シフのピアノ・リサイタル(2014年3月19日 東京オペラシティコンサートホール)です。録画を逃されていた方はこの機会にぜひ。

●3月21日(月)【3月20日(日)深夜】午前0時~3時30分

・英国ロイヤル・バレエ・ガラ【5.1サラウンド】
・マリインスキー・バレエ公演『アンナ・カレーニナ』【5.1サラウンド】

この週はバレエ週。前半が英国ロイヤル・バレエの短めの演目を並べたガラ(ライブビューイング上映済演目)、後半がマリインスキー・バレエの「アンナ・カレーニナ」です。



「アンナ・カレーニナ」はこのプロダクションであってますかしら(バレエには弱い自覚あり)。

●3月28日(月)【3月27日(日)深夜】午前0時~

・ダニエレ・ガッティ指揮 ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 2015オープニング・コンサート【5.1サラウンド】
・ベルリン・フィル ジルヴェスター・コンサート2015 【5.1サラウンド】

番組後半にようやく2016年が始まりますねえ(お決まり)、と先走らずに前半から。

昨シーズンでマリス・ヤンソンスが退任して、ダニエレ・ガッティを迎えたロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団は果たしてどうなるのか、彼でいいのか悪いのか。少なからぬ音楽ファンがこの人選のもたらす結果を気にしているだろうRCOの今後への第一歩、まずは黙って聴いてみましょうよ!(解説者風)
なお開幕公演のゲストはヨーヨー・マで、曲はショスタコーヴィチの第一番。オーマンディとの盤で彼の演奏を聴いている人も多いでしょうから聴き比べもまた一興でござろう(大河ドラマを流している影響)。2015年9月10日、ご存知コンセルトヘボウでのコンサートです。



後半が、恒例のベルリン・フィル ジルヴェスター・コンサート2015。指揮はサー・サイモン・ラトル、ヴァイオリンにアンネ・ゾフィー・ムターを招いたフランス音楽によるコンサートでした。いやあ、待ったなあ…

にしても。ラトル、ウィーンのニューイヤーに招かれたら絶対にやりますね「ラ・ヴァルス」。期待して待とうっと(何年待つ気だ)。


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BSプレミアムの看板番組といえば、この前最終回を迎えた「ザ・プロファイラー」はどうしてあんな人選でゴジラを取り上げてしまったのか。彼の「批評」はああなるに決まっているのに…と、他山の石とすることにします。ではまた、ごきげんよう。

KING OF PRISM(キンプリ)を見てください、いやできたらプリティーリズムから(以下略

こんにちは。千葉です。

11日に行われた新国立劇場「ヤナーチェク」の千秋楽をもって(盛況だったらしい。よかった)、無事ヤナーチェク月間も終了したので、ちょっと気分転換に映画を見てきました。見た映画は聞いて驚け、念願のキンプリこと「KING OF PRISM by PrettyRhythm」です。

まずここでおことわりを、「お前にクラシック以外の話は求めてない」と思われる方はここまででご容赦ください。ごきげんよう、また今度。

そして「むしろ検索とかでここにたどり着いたんですけど」的な人は、まあこういう人もいるということで少しおつきあいください。千葉はオーロラドリームからの「プリティーリズム」シリーズは全部見ています、ということでネタバレ等はあると思いますので、気になる方はご注意を。

また、映画の感想の最初に他所様のサイトを紹介するのも変な話ですが。千葉が「プリティーリズム」シリーズを観る中でずっと楽しく見させていただいていた「在宅アニメ評論家」さまのサイトは、これから「プリティーリズム」シリーズを見られる方に、放送当時のリアルな、しかも上質な反応をご覧いただける素敵なサイトだと思いますよ。作中で「この台詞!」とか「この曲!ショウが!」なんて思ったときに参照できる、ほんと詳細な感想ブログさんなのです(メモメモ推奨)。…さて、前置きはこの辺で。

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そんなわけでキンプリ見てきたんです。平日の午後だったのでさすがに人は少ないし、プリズムスタァ応援上映じゃなくて通常上映なので声も出さずに。

では「初見だから悶絶してわけがわからなかった」かといえばそうでもない。シリーズにはおなじみで、さらには以前から興味のあったで、ここまでのロングランとなった映画であれば情報はある程度入っていましたし(実は監督のメッセージのニコ生も見てたけど、映画館に行く時間が作れなかった、マネジメント超下手)。
もちろん、何度となく悶絶はしましたよ、特に神浜コウジはどうしたのか、いつの間にあんなセクスィモンスターになったのか。でもほら、「最高のクライマックスで、本気で泣きながら死ぬほど笑わされる」のはアニメ第一作「オーロラドリーム」からの伝統みたいなものですし、ねえ。

視聴の最低限の前提として、
「プリズムショーはフィギュアスケート的な競技で、歌とダンスとコーデで競う競技」
「プリズムジャンプは心の飛躍、…じゃなくて(そうなんだけど)、ジャンプに成功すると観衆は謎の力によって、ある種のイリュージョンを観る(場合によってはイリュージョンが実体化することもある)」
ということだけ知っていれば、実はきつちり正面から受け取れる作品なんじゃないかなあ。

っていうのは古参ぶりすぎかしらん。もちろん念願の「男子並み」プリズムショーの実現には大いに胸熱くなりましたけど、はちみつや電車が出てきてゲラゲラ笑う経験はすでにしていたもので…(笑)

では千葉は「KING OF PRISMをどのように見たか」という結論を先に書いてしまうと、千葉は「まだ存在しないTVシリーズの総集編、削られる前の尺はたぶん1クールから2クールくらい(想定は前者が2クールもの、後者はレインボーライブ並みの一年もの)」として最高に楽しく見ました。それだけの内容をほんとにギリギリまで削って、それこそなんとか”お話が成立する限界”まで削られているけれど、その全篇にこれでもかってサーヴィスが溢れた、とっても楽しい映画でした(中学生店長並みの感想)。

※セクスィモンスター、じゃなくて神浜コウジの料理紹介の長台詞が「削れるんじゃね」ネタ的によくつっこまれますけど、あれは「あの三人で親密に話せる時間(もしかするとこの話をしたらこの先はもう訪れないかもしれない時間)をどれだけ彼が大事にしているか」ってことを示すためと、お話の緩急的に数少ないテンポの遅い場面を用意したんだと思いますよ。だってあの場面であれだけ説明することで、大事な仲間のためにとっておきの具材で時間かけて最高の料理を作ってることがわかるじゃないですか。

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まずキンプリで描かれるお話を整理すると、こんな感じ、のはず。だいたいは作品の描出順だと思うけど、まだ一回しか見てないので間違ってたらごめんなさい。

・主人公、いろいろあってユニット「Over the Rainbow」(略称オバレ)のライブでプリズムショーに出会う
・主人公、見出されてエーデルローズに入る→エーデルローズの仲間に出会う
・エーデルローズの事情と、オバレの事情が交錯する
・エーデルローズには敵対的グループがいて(この流れはレインボーライブ最終回から続いている)、そこからの挑戦者が現れる⇔主人公が先輩に育てられる(描写は同時進行)
・オバレの活動停止発表で失意に暮れるイヴェント会場→先輩の意を受けた後輩・主人公がその窮地を救って終わり
・まだ何も決まっていないけれど、制作サイドが絶対に作りたい次回への予告編

これだけの、どれ一つとっても一パート~数話を使いそうな出来事が、どうしても尺を使うライブ、プリズムショー(ダンス、音楽で構成されるプリズムショーはどうしても端折れないから、削りようがないのね)を織り交ぜて総尺一時間程度で描かれているのだから、そりゃあ濃厚にもなります。断章をコラージュ的に組合わせた小説、コンデンスト・ノヴェル(濃縮小説)なんてものも世の中にはございますが、キンプリの場合はコンデンスト・アニメとでも言ってみましょうか。

でも、キンプリは時系列をいじらないし、明示されていない示唆的な描写はおそらくルヰくん周りの事柄だけなんじゃないかなあ(彼についても、まあそのなんですか、現時点でも使者的なアレ感を隠す気はないようですね←ちょっとだけ言いよどむのは、お話の先読みはしないタイプなのですこし気後れするからです)。

千葉が「KING OF PRISM」を見てこのように認識した上で、その感想をなにかに例えるなら”まだ「機動戦士ガンダム」が放送されていない時点で作られた、劇場版 I”ってことになります。

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想像してみましょう、「オバレのライブから主人公が氷室聖に見いだされる、そこにカットバックで入るルヰくんとの出会いまで」で構成された第一話を。ライブ会場にはきっと氷室聖もジュネ様を連れて来ていて、チラチラとレインボーライブの面々が放送を見ている絵が入ったり、忘れちゃいけないグロリアスシュワルツ!さんじゃなくてノリノリ法月さんが奥歯噛み締めながらテレビを睨んでる絵が合間に入るんですよ。
いや、もしかするとシンくんは第一話Bパートでエーデルローズに入るかもしれない、そこで一通りのキャラクターに出会う場面まで、そこで回想されるルヰくんとの会話で引き(ベッドでペンダントを見上げてモノローグのあと寝入って終わり的なイメージ)、みたいな。

その後も主人公がちゃんとプリズムショーをできるようになる回(エーデルローズの仲間、先輩たちの指導の中で、キャラクタの個性が見えるエピソードになるはず)が何回かあって、その中でエーデルローズの事情が示されてくる(ここでオバレのさらに先輩世代の関係も示される)。
キャラクターや勢力間の関係性が重くなりすぎる前に、旧シリーズとのリンクを示すエピソードを何回かはさんで(女子回もあるはず!)、小出しにされてきた敵対するシュワルツローズの姿がだんだんと見えてくる。そして迎える敵対的なドラマの最初のクライマックスが、キンプリで描かれたEZ DO DANCEバトルですよ。そしておそらく、2クール目の〆がオバレ活動停止からのシンくんのプリズムショー、劇場版「キンプリ」のエンディングです(そのくらいの時間が、キンプリ作中では過ぎている、ということでもありますね)。

その中には予告編で描かれたあれやこれやへの布石が随所に置かれていて、プリズムキングカップがいよいよ動き出す第3クールではオープニング曲も変わって、きっと武内くんもエーデルローズ組と一緒に歌ってるんですよ(妄想)。

と、千葉の脳内ではこんな感じで一年にわたって毎週放送されるTVシリーズの「KING OF PRISM」がぼんやりと見えてしまったんです。そしてこの感じが、”ファーストガンダムをTVシリーズではなく劇場版から見た”に近いような気がしているんです。あれだって相当に駆け足で、しかしギリギリで話が通るようにできてますものね。

こういう見立てみたいなのは別に当たり外れって話じゃあない、あくまでお遊びの類なんだけど、この作品の監督の菱田正和さん、脚本の青葉譲さん、演出の菱田マサカズさん、そして絵コンテの日歩冠星さんが、何故か偶然にも揃ってサンライズ出身で富野メソッドの継承者であること(ふしぎだなー)を考え併せれば、そう的外れな感想ではないように思いますが、どうすか。

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でね。この長い文章で何が言いたいか、簡単に書いてしまいますとですね。
「頼むからTVシリーズのKING OF PRISMを観せてくださいお願いします」です。

過去の「プリティーリズム」シリーズで、お話の本筋が読めていて(そこは子供向けゲームが原作だからさすがに複雑じゃない、世代を超えた因縁が絡むドラマは軽くはないけどわかりにくいものじゃない)なお各回に必ず驚きがあって(総集編的な回ですら!)、ドラマの最終的なゴールでは完全にこちらの予想も期待も超えてきたあのシリーズを、土曜の起き抜けに毎週楽しく見ていた千葉としては、できたら圧縮された劇場版じゃなくてTVシリーズで、続きものだからこそできる時間をかけた展開で観たいんです。

だって圧縮したら「伸び悩みに悩む太刀花ユキノジョウが、自分を慕うレオくんのショーを見て飛躍のきっかけを掴み、それを契機にふたりとも成長する」とか「加賀美タイガがいかにカヅキ先輩に憧れているか、そしてそれ故に伸び切れない部分があるのか」「カヅキ先輩がアイドル活動とストリート系の自由との狭間で迷いチェリピキ(略」「幸せヒロ様のノリノリなアイドル活動(夜ノヨッシャーマン撮影(略」などなど、そういうの全部抜けちゃうんですよ!シリーズなら「成長はしているけれど、どこかでオバレ頼みになってしまっている後輩たちを少し歯がゆく思う神浜コウジ(もちろんここでクロスさんも出る)」とか、絶対に布石を置くはずなんですよ!
(ってか今回だってできたら入れたかっただろうなって思ってます。キンプリではバトルと重ねて描かれた”指導”は、冒頭のライブから数ヶ月が経っての出来事だって明示したかったはず)

そして、「キャラの個別エピソードがないとCGは作られないよね」ってのもTVシリーズを推す理由です。「大和アレクサンダーの量感のある胴体がキリキリ動くのは新鮮だった」ってのはキンプリを見たほとんどの方が感じたことでしょうから、新作されるプリズムショーはきっと映像的にもいろいろおもしろいと思うんですよ。ユキ様のガチ和装を絡めたプリズムショーとか観たいじゃないですか(「ハルチカ」の影響もあって、千葉はユキ様推し←中の人に影響されやすい)。

寝起きで見た「オーロラドリーム」がいきなり楽しかったのは「CGモデルがちゃんとかわいい」というのもありました、それは日本のCGアニメのアプローチとして正解じゃないかと思えたんです。アニメで映像的強みがあるのって大事ですよね(それはアニメに限らない、映像作品には求められるポイントですけどね)。プリズムショー初見の人たちを大いに幻惑した(笑)キンプリの圧倒的な映像パワーが毎週見られたら、こんな素敵なことはないじゃないですか。ああもう、見たい観たい、TVシリーズで観たい~!(上葉みあか君は)

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いろいろ書いてきましたが。おっさんなので筐体で遊んだりしなかった千葉としては、今回の「KING OF PRISM by PrettyRhythm」の上映は、これまでアニメ「プリティーリズム」シリーズを作ってくれた皆さまに大きく手を振ってありがとうって叫べる機会がようやく訪れてくれたもの、と感じています。筐体で遊んで、グッズを買ってシリーズを支えてくれた親子の皆さんにも御礼を(千葉はCDしか買ってない)。

そして、時間が作れずなかなか見られなかった本作を、熱い応援で長く上映させ続けてくれたヤク…じゃなくて構成い…じゃなくて、エリート各位にも大きく手を振ってありがとう!であります(まだエンディング曲を覚えるほどは見ていないからキンプリ引用じゃないのはご容赦ください>エリート各位)。エリートの熱意でテレビ番組のミニシアターランキングの一位になったり、映画館の予約サイトを落としたり、なんてなかなかできることじゃないすよ!(笑)

にしても。上に書いた話の流れも確認しなくちゃいけないし、どうせなら一度くらいは応援上映を経験しておくべきなのでしょうか…サイリウムってこれ以外で使う機会、ないよなあ…などと思いつつこの長い文章はおしまい。

いつもの皆さんはまたの機会にお会いしましょう、検索とかで来られた皆さんとは縁がございましたらまたいずれ。ごきげんよう。

追記。この前、上映が終わったタイミングで映画館の前を通りがかったら女性二人が「待ってユキ様~」とレオくん遊びをしておりました。そりゃあ、脳内おうえん上映をする人も出てきましょうよ(笑)。




このサイトなんか経由してくれなくて構わないので(特典とかないですし…)、ぜひCDやDVDをお買い求めください(頼まれもしないのに販促)。

2016年3月6日日曜日

書きました:新国立劇場「サロメ」を聴くべき三つの理由

こんにちは。千葉です。

すっごく悲しいお知らせが飛び込んできたので、こっちは簡単に。先日「SPICE」に書かせていただいた記事の紹介です。

●新国立劇場「サロメ」を聴くべき三つの理由

簡単に済ませられる理由もあるんです。今日の公演を聴いてきたレポートもこれから書くのですが、自画自賛させてください、千葉が挙げた聴きどころが見事にはまって、なかなか出会えないレヴェルの上演となりました、「イェヌーファ」に続いてまたしても初日から。

聴き手も自分の内面へと心理的に掘り下げさせられるような「イェヌーファ」と、最高のメンバーを迎えてより力強く外へと表現が放射されるような「サロメ」、これが同時期に上演されているいまの新国立劇場に行かない理由はありません。できたらどちらの演目も楽しんでください、まだマーラーも生きていた、「春の祭典」以前の20世紀初頭にクラシック音楽が持っていた可能性を、こんなに強く感じられるめぐり合わせで名作の名プロダクションに出会える機会はそうありません。ぜひ。

ああそうそう、急なキャスト変更を入れると、聴くべき理由として、実は文中で四つ挙げています。おとなはウソつきではないのです。 まちがいをするだけなのです (おい)。

と、記事を書いた時よりも確信を持って、より強くオススメして今日のところはおしまいです。ではまた、ごきげんよう。

2016年3月2日水曜日

書きました:新国立劇場「イェヌーファ」が名演で開幕

こんにちは。千葉です。

さて、千葉は先月がヤナーチェク月間だと申しましたが、実際のところ今日からの上演に行かれる方にとっては3月がそんな月になることでしょう。そう確信するだけの、素晴らしい上演に出会えました。
という記事を書きました。まだ2016年は先が長いですが、新国立劇場「イェヌーファ」は千葉の今年のベストワン候補になりました。いや、もしかすると千葉のオールタイムでもベスト級の上演です。今からでもまだ間に合いますので、ぜひ。

●新国立劇場「イェヌーファ」が名演で開幕

ここまで書かせていただいた紹介記事では、「音楽を中心に」と限定して言及してきましたが、初日の幕が開いたのできっちりと全力で、この上演が描き出すドラマの話をさせていただきました。

チェコではいまも原作戯曲どおり「彼女の養女」と呼ばれるこの作品、今回の上演はかなりのところまで「彼女」ことコステルニチカの物語として展開し、しかし最終的に「養女」イェヌーファが未来へ進む物語に転換して終わります。この劇的な演出ひとつとってもこの作品の最良の舞台として記憶されましょうし(事実、この舞台は欧州ではすでに高く評価されていますし、その模様を収めたDVDはグラミー賞にノミネートされていたことは先日も書きました)、加えてト書きのない部分まで踏み込んでより緊密な劇に仕上げた手腕は圧巻です。オリジナルの演出を創りあげたクリストフ・ロイ、そして今回の上演のために来日したチーム(今回、演出補のエヴァ=マリア・アベライン以下、少なくないメンバーが日本公演のために来ていました)への称賛は惜しまれるべきではありません。

そして、前回も書きましたがトマーシュ・ハヌス指揮する東京交響楽団の出来は賞賛するしかないものです。オーケストラ・リハーサル、ゲネプロとよりいい仕上がりとなっていましたが、初日の公演はさらにその、ずっと上を行く出来でしたから、ヤナーチェクの音楽が好きな方がこの公演に行って裏切られることは絶対にない、と言わせていただきます。できたらここは信じてほしい(笑)。この上演に触れれば、「ヤナーチェクが20世紀を代表する作曲家の一人だ」と確信してお帰りいただけるはずです。

本公演を聴いたことでハヌスについてわかったことを、少しだけ書いておきましょう。「ヤナーチェクのオペラを得意とする」と評される指揮者は、多くの長所を持ち合わせていなければなりませぬ。もちろん、「ああチェコの指揮者だよね、ヤナーチェクのオペラ振るんだ」くらいのゆるい気持ちでこう評する人もいましょうけれど、千葉はそういうつもりで申し上げるつもりはありません。
まず第一に、もちろん「作品をきっちり手に入れていること」。まあこれは指揮者である程度以上の評価を受ける人には必ず求められるものですから、当たり前といえば当たり前ですけれど、こと演奏頻度の高くないヤナーチェクのオペラともなれば、作品に通暁しているだけでも貴重です。そりゃあ伊達に各地でヤナーチェクを指揮していませんよ、彼。「チェコの言葉がネイティヴにわかる」という強みはあるにせよ、あれだけの演奏ができるほどに作品理解が深いマエストロはそういません。
次に、指揮者としての基本機能が高いこと。いわゆるクラシック音楽とは異なる発想、展開が多いヤナーチェク作品をきちんと演奏するためには耳が良くてリズム感がよくて、なにより演奏家とのコミュニケーションに長けていることがとにかく大事です。千葉が昔から「嫌いな指揮者の条件」(笑)として挙げている、「特にすることないから旋律パートを見てにやにやしてる」「両手がいつも似たような仕事をしている」なんて指揮では、この音楽で起こるべき事柄がほとんど抜け落ちてしまうでしょう。
そして、ハヌスについて特に感じたのは「テンポ感が良い」ということでした。場面を描き分けるのに、過去のクラシック音楽が用いてきた形式やオーケストレーションなどによる「常套句」が使えないヤナーチェク音楽を演奏して高い効果を上げるには、場面のそれぞれを求められるテンポで演奏することが実に重要なのだ、と初日の公演を聴いて感じました。冒頭から引き締まったテンポで始まる彼の指揮する「イェヌーファ」は、全篇を通じて緩むことなどありませんでしたし、なんとなく演奏したような場所もありませんでした。そして、何度となく登場する全休止の「雄弁さ」もまた、彼の持つ「テンポ(=時間)」感覚ゆえだろうと思われます。

果たして他の作品を指揮するとどうなのだろう、いやまずはまた「イェヌーファ」を、もしくは別のヤナーチェク作品を聴いてみたい。トマーシュ・ハヌス、覚えてくださいね(二回め)。

いやむしろ、ヤナーチェクの音楽に不慣れ、不案内だからと尻込みされている方こそ、この機会を逃していただきたくないです。未知の作品でも最良の演奏で出逢うことができれば、その一度で多くのものを受けとれるわけですから、ぜひ。こういうサーヴィスもありますから、オペラは高いとか言わず。そこをなんとか。

ちなみに、ですが。日曜の公演からもう三日が経とうというのに、千葉は今でも脳内で突然「イェヌーファ」のそこここが鳴り出して、その都度手元の録音で渇を癒やそうと思い、そのたび「いやあの演奏ほどの録音なんか手元にないぞ」と気づいては脳内で音が鳴るに任せるという、なにか中毒のような症状に襲われています(笑)。今回の公演、レコーディングしてくれませんかしら。本気で。

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なお、Wiki的に個人の方が対訳を掲載している「オペラ対訳プロジェクト」にも「イェヌーファ」の歌詞がこの公演を前に掲載されました。気になるけどよくわからないYO!という方はそちらを見ていただくのもよろしいかと。その上で、もうちょっとヤナーチェクについて当たりをつけたい方には千葉の記事もご参照いただければと。

今晩の上演を含めてあと四公演、お見逃しなきよう。という記事を書いたよ、というご案内でした。ではまた、ごきげんよう。