2016年6月26日日曜日

書きました:“イタリア若手三羽烏” ダニエーレ・ルスティオーニ、東京交響楽団に登場

こんにちは。千葉です。

さて久しぶりに寄稿した記事の話、そしてそのコンサートの初日の話をば。

●“イタリア若手三羽烏” ダニエーレ・ルスティオーニ、東京交響楽団に登場

若手三羽烏の一人とされる指揮者、ダニエーレ・ルスティオーニについては記事中で書いておりますのでよろしければご一読のほど。リハーサル中の写真なども記事中に入れていますので、眺めるだけでも楽しんでいただけるのではないかと。
(その昔の”前衛~”もそうなんですけど、原語では「三羽烏」ってなんて表現してるんでしょうね?)

で、ミューザ川崎シンフォニーホールで行われた川崎定期演奏会を聴いてきたので、その感想を併せる形で記事の補足というか後日談といいますか。

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●東京交響楽団 第56回川崎定期演奏会

6月25日(土) 14:00開演ミューザ川崎シンフォニーホール

指揮:ダニエーレ・ルスティオーニ
ヴァイオリン:フランチェスカ・デゴ
管弦楽:東京交響楽団

曲目:
グリンカ:歌劇「ルスランとリュドミラ」序曲
ショスタコーヴィチ:ヴァイオリン協奏曲第一番 イ短調 Op.77
 ヴァイオリン独奏:フランチェスカ・デゴ
チャイコフスキー:交響曲第六番 ロ短調 Op.74 「悲愴」

(第641回定期演奏会 6月26日(日)14:00開演 サントリーホール 大ホールは同内容の公演)

リハーサルの取材前にはスコアを眺めて(くどいようですが「読んだ」といえるほどの学習をしてきていない、残念ながら)、取材時もスコアを確認しながら演奏を聴いた印象は、ネタバレになるので記事には書きませんでしたが「楽譜どおりだな」というものです。テンポを恣意的に動かしたりせず、引き締まったテンポでよどみなく演奏されるチャイコフスキーは、リハーサルの段階ですでに非常に好感のもてるものでした。
楽譜を見ればわかることですが、この曲っていわゆる愁嘆場的な場面がほとんどないんですよ。これは泣いて立ちすくむ音楽ではなく、前を向いて進んだ先で絶望的な局面に立ち向かう羽目になる、そんな力強くも絶望的な音楽である。彼のアプローチはそういう方向に向いているのだな、と感じました。通して演奏されるまで感想にはなりませんけど、感触としてはそんな感じ。

(念のため申しますが、千葉は「楽譜どおり」という言葉を悪い意味で使うことはありません。テクストを尊重しない演奏家をポジティヴに評価できるのはよっぽど特別の演奏ができている場合に限ります。もしくは、そのアプローチが楽譜の読みから導かれたものだと得心できた場合。だから、こうして書き表せる受容の可能性は、千葉の理解に制約されている。「理解」はこの場合相当に広義のものとします)。

対して、ショスタコーヴィチはこの日がリハーサル初日であったこともありこの日の時点では演奏の出来栄えについて確度のある予想は正直できませんでした。もちろん、日本初登場のフランチェスカ・デゴの腕前については聴けばすぐわかるもの、技量的に難曲を弾くことに困難はなく、とても音が大きい。長身痩躯からこの音か、と驚かされた次第です。自由自在な弓使いもさりながら、時折ポルタメントを駆使してより音楽に影をつけてくる左手の技も多彩。
ショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲第一番は、過去にパトリツィア・コパチンスカヤの圧倒的な演奏を聴いて以来彼の作品の中でも一二を争う好きな作品となって今に至ります。昔はオイストラフ盤一択であったりレーピンの横綱相撲に圧倒されていたのに近年ではなぜか女性奏者の名演が多い印象がありますが、果たして今回の演奏会は如何。

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で、聴いたコンサートの感想は、「皆さん、サントリーの公演聴いておいたほうがいいっすよ」です。

リハーサルからまったく安全運転しなかったダニエーレ・ルスティオーニは一曲目の「ルスランとリュドミラ」序曲から全開、やたらと推進力のある速めのインテンポでぐいぐい聴かせます。客席側に向き直ってしまうほど勢いのあるフィニッシュにはちょっと笑ってしまいました(これもいちおう言っておきますが、聴衆を笑顔にするたぐいの演奏に千葉は好感しか持ちません。プリズムショーで笑っちゃっても、「嗤って」いるわけではないのです)。一曲目からオーケストラの殊勲者に駆け寄るマエストロに、好感を持たないわけないじゃないですか(笑)。

そしてショスタコーヴィチ。デゴさんは黒のドレスで登場、そのお姿は東京交響楽団様がTwitterで公開してくれております。



肝心の演奏は、四つの楽章の性格を作品がバラバラになるギリギリまで別物として描写した、緊張感の高いもの。DSCH音形を強調してショスタコーヴィチの「告白」的な扱いにするのではない、音楽としての性格を強調したもの、と言いましょうか。
第二楽章で少しソロとオーケストラが上手く絡まなかった部分もあったように感じましたが、「いちいちソロにからんでくるオーケストラを振り払うように演奏する」ってのも、スケルツォについてはありかなと。

日本デビューを見事に飾った彼女はさらにアンコールを二曲も弾いてくれまして。それもイザイとパガニーニ、技巧的な無伴奏曲をふたつというのだから彼女の体力、集中力には本当に驚かされます。ちなみに、二曲目のパガニーニはアンコールのお決まりでもあるようで、ディスクをリリースしているユニバーサルがYouTubeにその演奏をアップしていますよ。


ちなみにルスティオーニは、ハープの後ろにあった後半用の椅子を我がものとして、奥方の演奏を聴き、聴衆と一緒に拍手しておりました。微笑ましゅうございます。

そしてメインのチャイコフスキーですが。これはですね、「オペラの得意なイタリアの若い指揮者がロシアのオーケストラを自在に振り回してみせた」ような、ドラマティックな演奏でございました。
ルスティオーニはリハーサル以上に動きまわってオーケストラを鼓舞していましたし、オーケストラはそれに十分以上に応えた。
言葉のない短めのオペラのようにも感じられる「悲愴」は新鮮で、何度も何度も聴いてきた作品とは思えないほどにスリリングでありました。テンポをなかなか落とさずに駆ける第一楽章のクライマックス、最後には「パートナーのいないワルツ」になってしまう第二楽章、まったく速度を緩めない運びが狂気すら感じさせる第三楽章、そして第四楽章については、もう。第一楽章から上行音形を輝かしく響かせてきたことが、フィナーレの82小節目からのクライマックスの、まさにその頂点でトランペットが脱落する(ように曲が書かれている)ことで圧倒的な喪失感をもたらすのはお見事でした。各楽章の描き分けが明確なのはショスタコーヴィチ同様で、これはご夫婦に共通する音楽性なのかもしれませぬ。

楽章間拍手もなく、最後の最後に咳が出ちゃった人はいたけどマエストロの右手から力が抜けるその瞬間まで、この日の聴衆は静寂を保った。だから、というわけではないのですけれど、演奏後のルスティオーニは感極まっていたようにも見えました。
オーケストラの中を歩きまわってプレイヤーをたたえ、全周の客席に挨拶する若きマエストロが再び東京交響楽団と共演してくれますように、と多くの人が思ったことでしょう。もちろん、千葉もそう感じていますよ、できたら次はロシア以外の作品で。そうですね、イタリアものも良いな、あとリヨンのポストに就くからフランスものも聴いてみたいし、若いオペラ指揮者のマーラーが聴きたい気持ちもあるんだよなあ…

(ここ最近多く聴かせていただいた「若いオペラ指揮者」では、バッティストーニはきっと第六番で凄い演奏をしてくれそうですし、ルスティオーニは第五番をすっごく美しく情熱的に美麗に仕上げそうな気がします。完全に希望込みで申し上げていますが、早く彼らにその機会を!ぜひ!!)

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コンサートを振り返って千葉が特筆しておきたいのは、東京交響楽団の柔軟性です。今月上旬には鈴木雅明を迎え、ひとつのコンサートの中で”古楽オーケストラ(モーツァルトではナチュラル・トランペットとケトルドラムを使用、ってアーノンクールのベートーヴェンと同じですよね)”と”オーケストラというオルガン(有機体でもある)”に変貌してみせた東響は、この日はロシアのオーケストラのサウンドを出していました。メロディの歌い方、輪郭の付け方や中音域を存分に鳴らした響きの力強さたるや。特にも、リハーサルでも印象的だったホルンの強奏は完全にロシアオケのそれ、しかもこのホールで鍛えた彼らはどんなに鋭く吹いても汚い音にはしない。素晴らしい。

今月の定期演奏会パンフレットがお手元にある方は見てみてください、ここにアルヴィド・ヤンソンスの記事が載っているのは偶然ではないのですよ。鈴木雅明を見事に迎えいれたのは、スダーン時代にいわゆる古楽奏法を取りいれたからだな、と音を聞けば誰もが得心したことでしょう。ですが、70年の歴史の中でソヴィエトのマエストロたちとの共演で理解してきたサウンドもまた、このオーケストラの持つ特色のひとつなのだと、オーケストラはここで主張していたのです。……たぶん。

思うに、ミハイロフスキー劇場でポストを務めたルスティオーニがロシア以外の地でこの音を導けたケース、いくら彼ほどの才能でもそう多くないのではないか。でなくて終演後の彼があんなに喜んでくれますかしら。そういえば東京交響楽団の幅広さを感じたのは新国立劇場「ムツェンスク郡のマクベス夫人」だったな、と思い出したのは帰宅の車中でのこと。スダーンが鍛えてノットがさらなる先へと導く東京交響楽団、この先も絶対に聴き逃せませんよ。まずは7月のノット月間、そしてフェスタサマーミューザ、さらにポポフの交響曲日本初演へと夏までにもイヴェント盛りだくさんですし。詳しくは公式サイトをチェックぅ!(笑)

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これでアンドレア・バッティストーニ、ダニエーレ・ルスティオーニと三羽烏の二人を具に拝見し演奏を聴かせていただいた千葉から、次にミケーレ・マリオッティを招聘される方にお願いします。ぜひ、取材させてください!記事は約束できませんけど!(そこ断言しない)

という冗談はさておいて、若い指揮者がその才能を開花させていくさまを観られるのは同時代人の特権です。きっと、クラウディオ・アバドやリッカルド・ムーティをそんな風に体験できた世代の皆様がいたでしょうし、ガラガラの客席でサイモン・ラトルとかいう若造の変なプログラムを楽しめた皆さまもいらしたでしょう。それらと同じような体験が今できているのだな、そう感じさせられるいいコンサートでありましたよ。
ルスティオーニは来年には東京二期会の「トスカ」、そして都響にも出演が決まっています。そして東響には9月にロレンツォ・ヴィオッティが来ますので、その機会は努々逃されませぬよう。そしてこの記事を読んでからでも間に合う方は、さ、今からでもサントリーへお向かいなされ(爺か)。

とオススメしてひとまずはおしまい。ではまた、ごきげんよう。

※追記。今回、ダニエーレ・ルスティオーニはまず兵庫芸術文化センター管弦楽団に出演し、この二日間を東京交響楽団と共演し、そしてこのあと2014年に日本で最初に演奏を披露した(同時期に東京二期会のリハをしている可能性があるのでこの辺ややこしい)九州交響楽団と共演する、というスケジュールになっています。そんなわけで九州のみんな~、準備はいいかい?(すでにコンサートを聴いている方々に釈迦に説法ぶちかますスタイル)

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