2016年7月10日日曜日

今このとき、「協奏四題」が再演される奇縁を思う

こんにちは。千葉です。

えー、これは残念ながら寄稿にいたらなかった、いわばボツ原稿です。ある程度までは書いたので、せっかくだから、と最後まで仕上げたものをここに載せますね。7月10日開催のコンサートのご案内です。

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この週末、ミューザ川崎シンフォニーホールで興味深い演奏会が開催される。ホール開館からの名物シリーズ「名曲全集」、第119回となる今回は伊福部昭の独奏者を交えたオーケストラ作品四曲を一度に演奏する「協奏四題」と題したコンサート。指揮は井上道義、オーケストラは当然東京交響楽団だ。
「協奏曲」とは名乗らないオーケストラ作品からなるこの独特なプログラムは、念願かなっての再演となる。前回の開催は1983年2月、まだ30代の井上と東響が取り組んだこのプログラムには、大きな意味があった。

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1935年にチェレプニン賞を受賞したことで、伊福部昭は若くして世界的に評価される日本の作曲家の先駆けとなった。しかし、その独特の作風ゆえ異端とされてしまっていた時期がある。受賞当時21歳の伊福部を高く評価したチェレプニンは作曲において民族的個性を重視していたため、欧風の作曲技法を追求していた楽壇とは相性が悪かったのだ。伊福部が賞を受けた1935年にはラヴェルもストラヴィンスキー、バルトークも健在、フランス6人組やメシアンも活躍していたことを考えれば仕方がないこと、だったかもしれない。

楽壇の評価はさておき、「銀嶺の果て」(1946)から始まった数多くの映画音楽の仕事や、東京音楽大学での職を中心に後進の教育にと活躍を続けた伊福部だが、作曲家としては一線からは少し引いた、隠居的な存在になりつつあった。しかし作曲家・伊福部昭は1980年前後に再び注目すべき作曲家として”復活”する。新作「ラウダ・コンチェルタータ」(1976)、そして代表作「シンフォニア・タプカーラ」の改訂(1954/1979)の発表に加え、「気鋭の若手指揮者」井上道義が伊福部作品を集中的に取り上げた「協奏四題」が話題を呼んだのだ。それまで楽壇の外の、ニッチな存在ともされかねなかった伊福部昭が、作風を変えずむしろより「日本の音」の追求を深めることで、70歳を前にふたたび注目を浴びるようになるのだ。「協奏四題」コンサートは、その契機のひとつと挙げられるにふさわしい、意欲的なものだった。

かつて若手としてこのプログラムに取り組んだ井上道義が、キャリアを積み大病を克服した今、33年の時を経てふたたび東京交響楽団とこのプログラムを取り上げる。独奏者は二十五絃箏の野坂操壽(1983年当時は野坂惠子)以外は現在の名手たちに変わっているけれど、30年以上の時を経て取り上げられる伊福部の協奏的作品は、ミューザ川崎シンフォニーホールにどのように響くことだろう。この会場ならば、純粋に伊福部作品の響きを楽しめること、請け合いである。

その昔「倭太鼓と吹奏楽のためのバーレスク風ロンド」を演奏したこともある私としては、ぜひともこの演奏会が成功してさらなる伊福部作品によるコンサートが開催されてほしい。舞踊曲「サロメ」、前述のシンフォニア・タプカーラ、などなどいわゆるクラシック音楽の範疇にある伊福部作品は、もっともっと知られてもいいものだ。

※今回の独奏者は以下のとおり。

マリンバ:高田みどり
ヴァイオリン:山根一仁
二十五絃箏:野坂操壽
ピアノ:山田令子


リハーサルは好調だった模様。いい演奏会を期待しよう。

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ここからは余談だ。

井上道義が「協奏四題」コンサートを指揮した1983年には「ゴジラ復活祭1983」としてリバイバル上映が行われ、その好評は翌年の新作へ、さらに平成シリーズとされる作品群、そしてハリウッド上陸へとつながっている。そして、伊福部昭の再評価につながったコンサートが再演を果たすまさにいま、「ゴジラ」シリーズの最新作として庵野秀明監督による「シン・ゴジラ」がまもなく公開されようとしている、このタイミングも伊福部昭と「ゴジラ」の縁なのだろうか。
新作の音楽は庵野作品おなじみの鷺巣詩郎が担当するが、果たして伊福部昭による数々の名曲は使用されるのかどうか、ここにも注目してほしい(過去制作された日本の「ゴジラ」映画のうち、伊福部によるテーマが本編でまったく使用されなかったシリーズは一作しかない)。

だから、というわけでもないが、「シン・ゴジラ」を観る前に最初の「ゴジラ」を是非見ていただきたいと思う。このタイミングを見計らってか、幸いなことに7月19日(火)21時よりNHK BSプレミアムで「ゴジラ 60周年記念デジタルリマスター版」が、そして26日(火)には「モスラ対ゴジラ」も放送される。それらの作品群を知り尽くした庵野秀明はいかなる新しい「ゴジラ」を見せてくれるのか、「協奏四題」コンサートともども大いに期待したい。

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