2017年4月11日火曜日

METライブビューイング「椿姫」

こんにちは。千葉です。
毎度おなじみオペラの劇場上映のご案内です。

●METライブビューイング 「椿姫」

4月8日からの上映ですが、詳しくはリンク先にてご確認くださいませ。

この舞台は見覚えのある方も多いでしょう、ヴィリー・デッカーの演出はザルツブルクでも上演されて、ネトレプコとヴィリャゾンのコンビで収録もされていますね。それに、METでの上演も2010年からなのでここの舞台でもご覧になられた方もいらっしゃるでしょう。

今回のキャストはヴィオレッタにソニア・ヨンチェヴァ、アルフレードにマイケル・ファビアーノ、ジェルモンにトーマス・ハンプソンほか。この三人について、私は「歌が上手いやつが正しい、歌が下手なやつのせいでこんなことになった」という酷い評価の仕方で見てしまうのですが、果たして今回の悪役は誰になるでしょうか(笑)。

そして指揮は二コラ・ルイゾッティ、東京交響楽団の客演指揮者としても活躍してくれた彼が大舞台に登場です。







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さて拝見しましたMETの「椿姫」。
ヴィリー・デッカーの演出はとにかく三人の心理に迫るもの、他の社会的要素はあくまでも環境、背景にすぎないものとして類型化、記号化されて示されます。有名な、あまりにも有名な作品でしかもヴィオレッタとジェルモン親子さえ描ければ十分にドラマが成立する作品だからできる力技ではありますが、これはこれで説得的です。
その力技を成立させるために舞台に持ち込まれた数少ない大道具の時計はヴィオレッタに残された時間を否応なく意識させるもの(だから第三幕のカーニヴァルの群衆とともに持ち去られ、彼女にいつ終わりが訪れても仕方のない状態であることがわかる)。もう一つ、これを大道具扱いは申し訳ないところだけれど、第一幕から黙役として姿を見せるグランヴィル医師はその容姿をヴェルディに似せることで、メタ的な構図を持たせられているように感じました(ちょっとお髭は少ないけど)。ヴィオレッタがこの作品の結末を知る彼に懇願し、ときにその”物語”を覆せたかのように喜ぶ姿により哀しみが増したように思います。造物主に挑む被造物の物語とも、もしくはヴェルディのライフワークであった「リア王」的父娘関係のヴァリエーションのようにも感じられる仕掛けは、よく知られた作品を新鮮に見せてくれるものでした。なるほど、2005年のザルツブルク初演以来各地で繰り返し上演されるわけです。そうそう、第一幕で休憩を入れてそのあとは続けて上演することで、「蝶々夫人」にも似た構成として、後半の悲劇にどんどんと感情的に巻き込んでいく仕掛けは歌い手には大変でしょうけれど、上手く行っていると思います。
…もっとも、フローラやドビニー、ガストーネあたりの役どころがその他大勢に埋没するのは、キャスティングされた皆さんには悪夢なんじゃないかなあ、って思ったことは書いておきますね(笑)。

さて注目のメインキャスト三人の出来についてです。やはりソニア・ヨンチェヴァのヴィオレッタがオペラを駆動し、ドラマをより深く示してくれたのは素晴らしかった。精一杯に生きて、そして死んでいくヴィオレッタの美しさは心に残るものです。そしてなにより多くを求められるこの役でありながら歌に不安がなく、強い声を最後まで維持してくれたので、必要以上に哀れっぽくなってしまわなかったのは特筆ものでしょう。ヨンチェヴァの実演に触れられる機会がありますように。
ジェルモン家の男二人については、それぞれに良し悪しがでたかな、という印象です。アルフレードのマイケル・ファビアーノは、甘く愛を歌うところで旋律線が崩れるのが気になる。旋律が歌い崩されることでこの舞台のアルフレードの性格を少々悪漢に寄せた、とかそういうことではなさそうでしたので、ちょっとそこはどうかな、と(ルックスや振舞いがどこか洋ドラに出てくるタイプの悪い子っぽいから、そういう味付けでもよかったのに、とか思わなくもない)。ジェルモンのトーマス・ハンプソンは、ちょっと調子が悪かったでしょうか、声が軽く響いてしまったのが惜しまれます。容姿と演技は文句なしなのですけれど。

そして特筆すべきは指揮のニコラ・ルイゾッティの充実でしょう。東京交響楽団の客演指揮者だった彼もサンフランシスコ・オペラの音楽監督として充実した活動をしているのでしょう、随所で雄弁な表情を示すオーケストラに感心させられました。耳慣れない響きもちょっとしたデフォルメもドラマをより深め、それでいて不自然に感じられることがないのはお見事です。また客演してくれませんかね、彼。シンフォニーの領分でもお聴きしてみたくなりました。

そんなわけで、この舞台は水準以上の「椿姫」としてオススメできるものでした。都合のつく方はぜひ劇場でご覧くださいませ。

ではまた、ごきげんよう。

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